英(はなぶさ)です。今夜も来てもらってありがとうございます。
今夜の刀剣止水は天下五剣「鬼丸国綱」をお届けします。
所有者が非業の死を遂げると呼ばれている鬼丸国綱
あの天下人、豊臣秀吉ですら、その存在を恐れたともいわれています。
その魅力を今夜はぜひ、味わっていきましょう。
――兼光、刀を語る
四つの部屋を巡り、
今宵、五つ目の扉を静かに開ける。
部屋の中央。
一振りの太刀が、静かに鎮座している。
今宵の主役。
天下五剣、最後の一振り。
鬼丸国綱。
持ち主に不幸をもたらす――
そんな噂を背負う刀である。
もとは鎌倉執権、北条家が所持。
やがて重臣、新田義貞の手に渡った。
しかしその義貞も、
足利尊氏との戦に敗れ、命を落としている。
私は、刃を見つめる。
二尺三寸四分。
天下五剣の中では、やや小ぶりの太刀だ。
災いを呼ぶと語られる名刀。
その姿は、どこか頼りなげにも見える。
そっと手に取る。
その瞬間、
背筋に冷たいものが走った。
ぞくり、とした気配。
刀とは本来、
人を斬るために生まれた凶器である。
その事実を、
この太刀は静かに思い出させる。
刃文は小乱れ。
細く長く伸びる刃に沿い、
小刻みに揺れるような焼きが続く。
静かな波のようでもあり、
どこか落ち着かない気配もある。
私は刃を傾ける。
地鉄はやや荒く、
透かして見ると、地金が白く霞む。
まるで薄い霧が
鋼の奥に漂っているかのようだ。
作者は粟田口国綱。
鎌倉初期、山城国の刀工である。
鬼丸――
その名の由来となった話が残っている。
鎌倉幕府初代執権、北条時政。
幕府の実権を握り、北条の権勢を固めた人物である。
だがある夜から、
時政の枕元に小鬼が現れるようになった。
夜ごと姿を現すその影に、
時政は次第に衰弱していったという。
そんな折、
刀の化身と名乗る翁が現れた。
「その太刀を、抜き身のまま部屋に立てかけよ」
そう告げて、姿を消したという。
半信半疑のまま、
時政は太刀を抜き、柱に立てかけた。
その夜――
不意に太刀が横倒しになった。
刃はまっすぐに走り、
火鉢の台となっていた小鬼の首を、
見事に斬り落としたという。
それこそが、
時政を夜ごと苦しめていた元凶であった。
鬼を斬った太刀。
それゆえに――
鬼丸。
もっとも。
この話が史実であるかは分からない。
後の世に語られた、刀の神秘を高める物語とも言われている。
だが。
私は、もう一度刃を見る。
先ほど感じた、
あの冷たい気配を思い出しながら。
――英、刃を想う
鬼丸国綱は、新田義貞から足利尊氏を経て、
やがて織田信長の手に渡る。
時代の頂点に立つ者たちが、
この一振りの太刀を欲し、手にしてきた。
鬼丸が災いを呼ぶのか。
それとも――
権力そのものが、
鬼を呼び寄せるのか。
私には分からない。
ただ一つ言えるのは、
この太刀が、常に時代の中心に在り続けたということだ。
静かに刃を思う。
鬼を斬ったという伝説。
権力者たちの手を渡り歩いた歴史。
そのすべてを背負いながら、
鬼丸国綱は、今もただ静かに在る。
刀剣止水。
水面のように心を澄ませて刃を見つめるとき、
そこに映るのは、鬼ではない。
人の欲なのかもしれない。
語りの兼光とともに、
五つの部屋、五つの刀を見て回りました。
天下五剣、刀剣止水。
今宵は、これにて結びといたします。







