古流自由研究『月影』

古流自由研究

九本目 『月影』

英(はなぶさ)です。
本日は古流自由研究、九本目『月影』をお届けします。

月影――
これも学生居合でよく使用される業です。

理合から見ていきます。


■ 理合(原文)

吾が右寄りの正面より上段に仕掛け来るを其の左内甲手に(又は諸手を)斬り付け、更に敵後退するを踏み込みて斬り下し勝の意なり。
この場合敵は吾が右側面より斬り付けんとしものとの想定にても差支へ無し、只第一刀の抜き付けに際し體の旋回の度合ひに廣狭の差あるのみ。


■ 動作(要点抜粋・口語訳)

① 正面よりやや左(※約15度ほど)に向かって正座し、刀を少し抜きかける。

② 右足を正面に踏み込み、身体を左に開く。相手が上段から斬り込もうとしてくる、その左の小手に向かう意識で動く。

③ 踏み込みながら刀を諸手で上段に振りかぶる。

④ 右足を踏み込むと同時に、敵の真向から斬り下す。

⑤ 左手を鯉口に取り、同じ要領で血振いを行う。

⑥ 右足を引き、太刀を取った姿勢のまま(※腰を下げて)納刀し、動作を終える。


■はなぶさ 注意点

・正座で着座する際は、刀の柄が正面を向くよう、約15度の角度を意識するとよい。

・打ちごてからの前進は、左足で一歩、続いて右足で一歩。
 継ぎ足でも歩み足でも、どちらでもよい。

・この際、早く振りかぶらず、ぎりぎりまで手元を残すこと。
 そこから振り上げたら、素早く振りかぶり、そのまま斬り下すことで、業に深みが出る。

・納刀時は、教本ではやや腰を落とす(啐啄会稽古時)。
 ただし、合同稽古や試合では腰を落とさないようにし、場面に応じて使い分ける。


■探究録

「月影」とは何か

古流に伝わる業名には、多くの場合、その動きや理合を示す意味が込められていることが多い。
しかし、この「月影」という名に関しては、直感的にその意味を捉えることが難しい。名の響きは美しいが、業の本質とどのように結びつくのか、一見して明確ではない。

一方、夢想神傳流においては、この業は「勢中刀」と呼ばれている。
私は、この呼称こそが、この業の本質を的確に表していると考えている。

無双直伝英信流と夢想神傳流の関係についてはここでは触れないが、同一の業に異なる名が与えられている事実は興味深い。ある時代、ある伝承の中で、業の解釈、あるいは伝え方に変化が生じた結果であろう。長く稽古を積む者であれば、いずれ自然と向き合う問いである。

ここでは、その議論には深入りせず、「勢中刀」という名から、この業の理合を読み解いてみたい。

「勢中刀」とは、すなわち
敵の勢いの中に入り、その勢いを殺し、制する刀である。

敵が打ち込まんとするその瞬間、こちらはその起こりに先んじ、間を詰める。
刀は敵の内小手、すなわち急所へと突きつけられ、その切先は敵の動きを封じる。

実際には切先は敵の左目をとらえており、単なる型というよりは、実践に近い。
敵に「これ以上は踏み込めない」と悟らせる、気と間の制圧である。

その結果、敵は一歩退く。
その退きを見逃さず、間髪入れずに追い込み、斬り下す。

ここに至って初めて、この業は完結する。

「月影」という名が、静かに差し込む光を思わせるのに対し、
「勢中刀」は、その内に秘められた攻防の理を、明確に語っている。

名は異なれど、そこに流れる本質は一つ。
静の中に動を含み、動の中に静を宿す。

この業は、ただ斬るのではない。
相手の勢いそのものを制し、勝機を生み出す業である。

もし居合や刀について疑問があれば、
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